寝付けない 睡眠と音の関係

騒音計ではわからない

騒音の状況を伝え時に多くの方が「騒音計」を連想するようです。現に「○○デシベルの騒音」とご相談を頂くこともあるのですが、騒音計でわかるのはじつは「音量」だけです。ご相談者が感じる音量とご家族が感じる音量、そして私が感じる音量は感じ方が違います。ですからこの情報だけでは、せいぜい一般的な評価しかできません。お話をじっくり聞かせて頂いて初めて騒音計は有益な情報となり、ご相談者の状況や苦しさもわかるようになりますが、騒音計の数値だけでは「騒音」を伝えることはできないのです。

私どものお客様をみるかぎりにおいてお引越しのタイミングでご相談を頂くことが多いです。お引越しとは大きく環境が変わること。このタイミングが最も危険です。ほとんどの方が「住んで初めてわかった」そして「なかなか寝付けない!」とおっしゃいます。
どれもこれも想定外!!

  • 下見は日曜日で静かだった。
  • 抜け道だった。坂道・交差点近くがこんなにやかましいとは思わなかった。
  • 環境が良いと思っていたのに、公園(学校)がこんなにうるさいとは思いもよらなかった。
  • キッチンや収納などの機能や間取りばかりが気になって音に気付かなかった。
  • カタログ(販売員)の「防音サッシ」という言葉を信用した。
  • 仕事が忙しく吟味している時間がなく利便性で購入した。

困った。でもどうしたらいいのかわからない。

ご相談者に共通しているのは、対策方法は無論のこと、何をしたらよいのかが、全くわからないということです。< それは、騒音の悩み・苦しみをどのようにすれば他人はわかってもらえるのか、誰に相談するのが適切なのか、なにもかも含めてすべてです。でもそれは当たり前のこと。初めてのことだからです。今まで音に悩んだ経験はなく、騒音は他人事だったからです。「まさか自分に降りかかるとは思いに寄らなかった。」という心境がぴったりです。

音は慣れると聞くけど本当?

おそらく、困ったことが起こった時は、最初にご相談するのはご家族やとても親しいご友人であろうと思います。ご家族もご一緒に「喧しいね」となれば、これはもう、一人の問題ではなく、お二人の重要問題となりなりますので解決に向けてのスピードは速まりますが、これが、音で悩んでいるのがご家族の中でお一人の場合はなかなか進みません。
そしてご相談をしたとしても多くの場合はご相談しても「音は慣れるから」とのつれない言葉がご相談者に返ってくるようです。

本当に慣れるのでしょうか。

音は脳には強いストレスを与えます

耳から入った音は脳に伝わり、脳は音が「不快な音」か「そうでない音」なのかを判断します。

音の中には「心地よい音」というのも存在します。「穏やか波」の音や「小鳥のさえずり」の音は誰もが安らぎや癒しさえ感じます。この音を不愉快と思う人はいないと思います。

穏やかな波。寄せては返す波のリズムは、眠りが深いときの呼吸のリズムや不快深呼吸のリズム(1回の時間)と一致しているため安堵を感じます。
小鳥は人間よりもはるかに早く危険を察知することができます。その小鳥がさえずっている状態は、「安全」と言えます。

身の危険を感じる必要がない状態、無防備でも許される状態を連想させる音は人間にとって心地よい音と感じます。それは長い長い何世代にもわたる経験から学んだものです。脳が安全であることが認識できればその音に強いストレスを感じなくなるのです。

「騒音が気になる」これは生理現象です

「この音は安全かどうか確認しなければならない。」このように判断した時、人間はストレスホルモン(コルチゾール)を出します。そしてこのホルモンは不快、聞き慣れない、そして音量が大きいほど、一瞬にして大量に出て、その場から逃げ出すようにと、体中に伝令を伝えます。

でもここは自宅であるがゆえに逃げたくても逃げられません。だから我慢をする。この我慢がさらにストレスとなり、ストレスホルモンは勢いを増してさらに出続けます。やがては我慢しきれないほどの量に達し「もう私、ダメ。騒音を何とかしなければ」と人は動き始めます。

寝付けないのも当然です

ご存知のように大量のホルモン分泌は、体に様々な負担をかけます。このコルチゾールは起床ホルモンでもあり、通常、起床時間の3時間前から分泌が始まり、起床時に最も分泌されるホルモンです。寝室の騒音の場合、就寝時にこのホルモンが騒音によって大量分泌されるので、「寝付けない」という現象が起きるのです。

睡眠は体をメンテナンスするという生きていく上で最重要な仕事を担っています。体をメンテナンスするようにと体中に伝令するのは「メラトニン」というホルモンです。このホルモンは「美容」ではよく知られていますので、女性の方はご存じのことと思います。このメラトニンが出始めると、人は「睡眠モード」に入り、就寝から眠りが深くなるにつれて分泌量が増え3時間後に最も大量に出ます。(メラトニンの3時間、コルチゾールの3時間を足した6時間。これが人にとって必要な睡眠時間

騒音に晒され寝付けないは、起床ホルモン「コルチゾール」が大量に出てしまい、睡眠スイッチのホルモン「メラトニン」の分泌を邪魔するからです。そして、睡眠は阻害されるため、体の回復はできず、その結果、「疲れが取れない。」「イライラする。」「集中力に欠ける。」「忘れ物が多くなる。」などの症状を引き起こします。全部これホルモン。人間の生理現象です。

全ては経験がないから

これらは、「身の安全」に関わる問題に起因しています。人間も動物です。騒音は生理現象、つまりは生きる上での自然反応です。この「感度」は人によって違います。

何を差し置いてもこのことを最初に理解する。少なくても「知識」として共有する必要があります。これはご相談者だけでなく、周りの人を含めてご家族のみなさん全員に必要なことです。時々、ご家族の中で騒音に苦しめられているのがお一人の場合がありますが、絶対にご相談者がおかしい(耳が壊れていると表現するご相談者もいらっしゃいます)ということでありません。真面目な人ほど、優しい人ほどそのように思い詰める傾向があります。

そしてご家族は、音の事、騒音に予備知識はありません。当然経験もありません。ですから助けてあげることが出来ず、ご家族もまた苦しいのです。騒音の多くは「誰」が悪いでも「何」が悪いでもなく、「知らない」だから「理解できない」だけのことです。だから知識を共有すれば必ず理解できます。思い詰めるとそれこそ本当に体を壊してしまいます。

音には「音量」と「周波数」という顔があります

日常生活においては「高い音」「低い音」と表現していますが、これは周波数のことです。高い音とは、周波数の数字が大きい事であり、低音とはその逆です。音階(音程)も周波数に置き換えることができます。(正しくは音名といいます)

私たちがいろいろな音を聴き分けることができるのは、この周波数のおかげです。騒音や防音を考えるときこの2つを同時に扱う必要があり、「○○ヘルツ△△デシベルの音」とするのが正しいといえます。 ※ヘルツ(Hz)は周波数の単位デシベル(dB)は音量の単位

音は数値にすることができます

そして周波数(振動数)と音量(大小・強弱)はいずれも数字で表すことができます。数字であれば誰もが大小を判断できます。また尺度を整えてあげれば誰もが評価することができます。そして、足し算・引き算などの計算を可能にします。

自然界では単一周波数の音(「純音」もしくは「単音」とも言います)は存在しません。必ず複数の周波数でできています。この一つ一つの周波数と、一つ一つの周波数の音量の集合体が音です。この音の構成パターンが音色となり、不快な音。綺麗な音など、音に表情を与えます。(ギターコードや和音をイメージしてください)

そして音が2つ以上ある場合、音は互いに影響しあい、組み合わさることで不快になったり、心地よくなったり、心理的な影響を与えることもできます。またこのことは音源が1つの場合でも同様です。楽器を考えると簡単で、同じ「ド」でもピアノの「ド」と木琴の「ド」は聞こえ方違います。これは、「ド」を鳴らしたときに意図せず出る1オクターブ上の「ド」や2オクターブ上の「ド」(2倍音、3倍音)の出る量が楽器によって変わるからです。

周波数を操作することで音への印象(表情)は大きく変わります。つまり音色(聞こえ方)を変えることできるのです。この技術にたけている人が作曲家です。そしてもし「騒音は邪魔な音」と定義づけるのであれば、この技術を使って、音が鳴っていても不快ではない音に、つまりは騒音だって組み替えることもできるとは思いませんか?

騒音対策と防音対策は違います

騒音対策と防音対策(もしくは防音工事)は違います。くらしの音の悩みの対策をとる時には、まずこのことをおさえなければなりません。騒音とは外部から室内に入ってくる音を扱い、防音は室内から外に漏れる音を扱います。違いは「内向き」か「外向き」かです。

騒音は「内向き」ですから、そのお部屋の中にいる対象者は限定されます。とくに私どものように「すまい」にこだわると、ご家族・ご親戚かご友人とかなり親しい人です。さらに言えばご相談の中で最も多い「寝室」となりますと、ご家族だけです。ご相談者お一人という場合もたくさんあります。求めれる対策の設計は、ご相談者に合わせるということにつきます。それは「騒音と感じる」か「騒音とは感じない」この判断がご相談者個人の感覚量「主観量」から下されるからです。

また、騒音は自ら出している音ではないため自分に「非」がなく、とくにご相談の多い車や電車などの交通騒音は、相手が見えないことも相まって被害意識が強く働きます。「なぜ私が苦しめられるの」と心理的に傷ついている状態です。

相談先に求められるのはご相談者が置かれている状況を理解し、悩みを共有することです。そして信頼を築き、ご相談者に騒音対策に関する知識をわかるようにお伝えし、ご相談者から「納得できた。」と言っていただける関係にならないと、騒音問題は解決することができません。

これに対して防音は外に漏れる音を自ら防ぐことです。想定する対象者は「多数」であり、評価は「一般的」「社会的通念」で対策が練られます。

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騒音対策と防音工事は同じ材料、同じ工法を使いますが、求められるゴールが違うため、対策工事の設計が大きく変わります。

相談先が見つからない

音を扱う建築事業種としては「防音工事業者」「音響エンジニア」が該当しますが、音響エンジニアはコンサートホール・映画館・スタジオなどの商業施設を作ることが主な仕事です。防音工事業者はカラオケボックスや個人宅の音楽室、ホームシアターなど主に趣味を楽しむために、部屋からの音漏れを防ぐ防音工事が主たる業務です。これらの業種は「物理学」「建築学」「音響学」の知識を使って工事を設計していきます。

 

騒音対策には「周波数と音量」という物理と客観と、個人の「感覚量」というあいまいな主観を同時に扱う必要があります。この感覚量、しかもご相談者お一人の感覚で決められてしまうという点 あえて悪く申せばご相談者の気分次第で変わってしまう点が、音響エンジニアや防音工事業者を泣かせます。

さらに、騒音対策は「心理学」「生理学」という知識も必要とされます。つまり真の意味でのすまいの騒音対策事業者はおそらく存在しないのが実情です。

よき相談先でありたい

窓屋の長男として生まれた育った私は、建物で最も防音性能が低いのが窓で、窓を改善してあげれば、外からの入ってくる音も、そして、室内から外に漏れる音も小さくなることを知っていました。インターネットの常時接続が普及し始めた2000年に窓のサイトを立ち上げ、その中に商品アイテムとして防音窓を取付販売するサービスを開始しました。怖々始めた防音窓サービスは5年間の試行錯誤と実践を経て、「すまいの騒音対策サービス」は存在しないと気づき、すまいの騒音対策サイト「いい防音」を立ち上げました。

音窓屋から騒音対策へとステップアップできると思わせたのは、まさに周波数分解とメーカーの建材データを使えば、騒音対策は計算できると判断したからです。

当初は目論見通りに音は落ち、お客様からも高く評価されました。ところがある時から、数字としては設計通りでもあるのにかかわらず、思ったほど「静かになっていない。」現場や、同じく設計通りであり私どもがそのお部屋にいる限りでは「僅かにしか聞こえないにも係わらず、「こんなはずではない」とのお言葉を少ないとはいえ、一定の割合で頂くようになりました。この時から、騒音対策の研究が始まりました。

仲間は自然とできました

実践と書物から学んだ技術・評価・計算方法だけでは、この問題は解けないのですから、すべて仮説を立てて自ら専門家を見つけ教えを乞うより方法がありませんでした。耳鼻科医・寝具メーカー・音響メーカー・楽器メーカー・計測機器メーカーを尋ねて回り、どこに出向いてどなたを尋ねれば知識を得らえるのかをしつこく聞いて回りました。

また、わしどものお客様の中には、音楽家・演奏家・音響エンジニア・音大教授など、音を職業とされている方々がいらっしゃり、その方々が知識やヒントを惜しみなく授けてくださいました。

そして、音を解析するには音のデータ必要となります。このことが私を助けてくれました。建築業界は「新築」一辺倒で、建てた後の「くらし」は無関心だったのです。そんな中で実際の暮らしの生データを私がたくさん持っていることが、研究者の関心を引き寄せました。

研究者にとって私は、研究費を使わなくても、自分の理論・アイディアの実験を率先して実践の中で試すことできるという都合の良い存在でもありました。この互いに補うという関係の中で、基礎理論から最新の理論まで私は学ぶことができました。